とある春の日のこと、放課後。
「・・・・・またコレか・・・・・。」
そこにあったのは、毎回のように下駄箱に入っている手紙。
中身は確認してないが、多分顔が赤くなるような、しかもわざわざ凝らして
丸っこい字で書かれた手紙が入っているだろう。「ったく・・・・・。」
俺はそれを何のためらいも無く握りつぶしてポケットへと突っ込んだ。
家で処分するためだ。流石に人の居ない場所でも学校で処分するのは気が引ける。
さて、何で俺はこんなことをしたかって?そんなの簡単だ。
一回仲間にその手段で騙されたからである。正直あの時は顔から火が出る思いだった。
その後全員ぶん殴って無事ストレスは解消出来たのだが。
まあ、そんなこんなで、俺はよくこう言うものに騙される。
周りにそう言うのしか居ないんでな。「・・・・・騙されると思ったか。」
自分で捨て台詞を残して、帰ることにした。春にしては夕日が輝いてる。
・・・・・って何考えてるんだよ、俺。人間不信のせいで頭まで逝ったか。
そして今度こそ帰ったのだった。
翌日。またも放課後。
そこにはいつも通りと言うか、封筒が入っていた。だが、今回は少しばかり違う。
いつもなら可愛らしい封筒なのだが、今日の封筒は味っ気も何も無い茶色っぽい封筒。
そして、その表面を見てまた驚いた。そこには「果たし状」とだけ書いてあったからだ。「・・・・・・・・・・。」
何だコレはいつも無視してたせいでとうとうキレたのかそれだったら何で昼間に襲ってこなかったのか大体3週間くらい無視してやっとキレるとかどんだけ気が長い良い奴なんだいやそんな奴だったら初めからそんなことやらないだろうそうか別人からの犯行か確かにいつもと違い筆で書かれてるしじゃあ俺はどうすればいいんだ。
俺は脳をフル回転して考えた。だが、結局まとまらなかったので結局。
「中身を確認してみるか・・・・・。」
この行動に至ったのであった。
なお、この手紙を確認する前に俺が周りを見て人がいないのを確認してたのは秘密だ。
だってさ、取りあえず手紙だぜ?傍から見たら誤解されるだろ?まあ、結局誰もいなかったので一思いに封筒の中身から手紙を引き抜いた。
「・・・・・やべえって、オイ。かなりキレてる。」
中身を見た俺は逃げ出したい衝動に襲われた。何故ならそこには「理科室で待っている」とだけしか
書いていないからだ。きっとアレだ、キレててこれ以上書くこと無いんだ。
こうなったら着いた瞬間大声で謝って逃走してやろう。そうすればきっと無傷で逃げ切れる。
こんな事を密かに考えながら俺は着実に理科室へと向かっていった。そして理科室前。「・・・・・よし、1、2の3で入って逃げるか。」
自分自身への確認。ヘタレだな・・・・・俺。とか密かに思っていたが、やはり命は惜しい。
スライド式の扉に手を掛けて、足は逆方向に向ける。これで即逃走可能だ。そして、一気に俺は扉を開けて
空気を吸い込む。そして、大声をひねり出す。「手紙無視して!・・・・・ってあれ?」
ひねり出した大声は途中で止まる。そこには俺が想像したような人間がいなかったからからだ。
代わりにそこにいたのは一人の女子。何だこのシチュエーション。ボーっとしていると、女子は俺の方へ近寄ってくる。
「・・・・・あ。」
ここで俺はマンガとかでよく見た場面を思い出した。それは人が駆け寄ってきてその勢いで、
ナイフを突き刺す、と言うありがちで恐怖を感じる場面だ。まさにこれはその場面だ。ヤバイ、逃げられない。
俺はここで死ぬ。その言葉がひたすらこの数秒間頭の中に何度もリピートされる。
そして、その言葉を理解したとき俺は無意識的に昔のことを思い出していた。いわゆる走馬灯だろう。「短かったな、人生。」
きっとコレが最後の台詞になるだろう。来るべき痛みに備えて目をきつく閉じた。
「・・・・・あの・・・・・どうしたんですか?」
呆然としたような声、目を開けるとそこには女子が俺を見上げてた。
手を確認したが、何も無い。ってことはだ、もう身体にナイフが刺さってるのか。
痛みって感じられないんだな・・・・・最後に俺は傷口を見る。だが、そこには傷口はおろか、ナイフさえも見当たらない。「って、事はだ・・・・・・。」
「?」
生きてる。何故だか知らないけど殺されてない。その瞬間全身の力が抜けてドサッと尻餅をつく。
そして、冷静に分析を始めてみた。まずは何で殺されてないかだ。ってか、最大の謎だな。
殺されるかと思ったのに、何故か目の前の・・・・・一年下の女子はただ不思議そうに俺を見てるだけ。
ついでに言うと学年は名札の色を見て知った。で、結局どうするか。・・・・・仕方ない。このままボーっとしてるのも何だ。
「いくつか、質問させてもらっていいですか?」
「いいですけど・・・・・どうして敬語なんですか?」
「怖いからです」なんて、口が裂けても言えない。
「何で・・・・・えと、怒って・・・ないんですか?」
言葉を選びながら、慎重に質問する。少しでもミスったら即死ものである。
「・・・・・何で怒る必要があるんですか?」
「いや、えと、手紙・・・・・無視してたから・・・・・。」
そう言うと、彼女は少し納得したようにあ〜あ〜、と頷き、笑って言った。
何だ?何なんだこの笑みは。怖いよ。「別にいいですよ。今日は来てくれたじゃないですか。」
「まあ、あんな内容だったら・・・・・。」
さっきの「果たし状」と書かれた手紙を思い出す。俺がここに来たきっかけであるものだ。
しかし、目の前の彼女は不思議そうに首をひねった。「?・・・・・別に今日も同じような内容のはずでしたけど。」
「そ、そんな馬鹿な!じゃあこの手紙は何なんだ!・・・・・いや、何ですか?」
失言に気づいてすぐに言葉を正して、手紙を差し出した。それを見た彼女はいっそう不思議そうな顔を見せた。
「・・・・・え?あの、これが本当に入っていたんですか?まったく覚えが無いんですけど・・・・・。」
困った顔を見せてくる。正直見せられても困るわけだが。そんな事を言えば、
俺はたちまち消されるであろう。「・・・・・まあ、この手紙の件については取りあえず保留にさせてもらっていいですか?」
手紙を持って聞いてくる彼女。取りあえず頷いて置く。
その反応を見ると彼女は手紙を机の上に置いた。「では、本題に入っていいですか?」
「どうぞもちろんでございます。」
謎の敬語を言ってしまったかと、後悔したが、今更しても遅い。取りあえず立ち上がって、
緊張しながら彼女を見据える。これがもう少し違うシチュエーションならな・・・・・とか、
心の中で呟く馬鹿な俺。今は危険なシチュエーションだ。「手紙の内容を見てくだされば、大体は想像できると思うんですけど。」
「て、手紙の内容って・・・・・アレですか?」
うろたえながら答える。もちろんアレって言うのは「果たし状」の方である。
「・・・・・何か勘違いしてませんか?いつも送っているほうですよ?」
「勘違いなんかしてません・・・・・・・・・・って、そっちですか!!!!?」
ビビる俺。何故って?あっちの手紙は一回も読んでないからだ。ヤバイ、ヤバイよ。
絶体絶命だよ。そう言えば絶体絶命って「絶対」じゃなくて「絶体」なんだよ。知ってた?ってそんなことどうでもいいよ。
「その様子だと・・・・・読んでないみたいですね・・・・・・。」
「す、すみません。」
「い、いえ!とんでもないです!素性が知れなかったんですからむしろそれが正常ですよ!」
必死にフォローしてくれてる。ってアレ?何でフォローしてくれてんの?
「じゃあ、いきなりって事になってしまいますか・・・・・驚かないでくださいよ?」
「だ、大丈夫。」
そう言うと、彼女は深呼吸をして、少しうつむいて、いきなりキリっと真面目な顔をしたと思うと、喋る。
あれ?このシチュエーションはまさか・・・・・。いや、今更そんなオチは無いだろ!?
彼女の口が開く瞬間、何故かこう言うときだけ手がパッと動いた。そして、その手は彼女の前でパーを出していた。
簡単に言うと「待てサイン」だ。「ちょっと待った!何を言おうとしてんの!?」
「え!そ、そんな!?せっかく言いかけてたのに止めるんですか!?」
何か向こうもテンパってる。こっちがいきなり止めたからだろう。
まあ、確かによく考えると、意味無かったし可哀想に思えたので、やめた。「ゴメン、じゃあいいや。言ってくれない?」
「わ、分かりました。」
困った顔をしていたが、やがてまた真面目な顔になったと思うと、彼女は喋り始めた。
「・・・・・えっと、懐かしいな、あの時のこと。もう数ヶ月も経つわけか。」
「そ、そうですね・・・・・。」
「そう言えば、あの手紙は誰だったんだろうな・・・・・。」
「べ、別にそれはもういいんじゃないですか?」
彼女といつものように話し合った。いつも通りのギクシャクした雰囲気。
決して仲が悪いわけじゃないんだが、ちょっと二人ともそう言う性格だから・・・・・。ま、これでも楽しいからいいんだけどな・・・・・。
終わり。