今、私の目の前には二人組が歩いている。彼らの関係は正真正銘、恋人の状態。
私が一番その事を知っている。何故かって?

私があの二人をくっ付けたからに決まってるじゃない。

元から彼女の方は心配なかった。ただ彼氏の方があまりに鈍感だったので、
少し手紙に細工をさせてもらったのだ。で、取りあえず二人はくっついた訳なんだけど・・・・。
あの二人、今までそれらしい付き合いをした事が無いらしいのよ・・・だからか、まったく進展が無い。
いつも影で見守っているが、ギクシャクしてきて怒りがわいてくる。

「お二人さん、本当に殺意で人が殺せなくてよかったね。」

電柱の影でボソッと呟く。だって、私にだってやりたい事はあるのよ?
その貴重な時間をわざわざ割いて協力してやってるのに、まったく進展がない。

だからこそ、またもこうやって私が行動に移さないといけないわけで。

「えっと・・・・・。」

と、思ってたらいきなり声が聞こえる。どうやら彼女が話し始めたようだ。
これはもしや、と思い、携帯で「まだ待って」、とだけ送った。
送った相手は彼らの先にある電柱の影にいる私の兄貴。
今回の計画のキーパーソンだ。

「暖かい・・・ですよね?」

何でそんなことを。

「多分・・・・・暖かいんじゃない?」

疑問系で返しちゃダメでしょ。

・・・・・ダメねこれは。と言う訳ですぐさま私は兄貴にメールで実行するように送った。
すると兄貴は、電柱の影から現れる。

「随分と仲がいいねえお二人さん。」

そして、台本の通りに読んでくれた。

何故か知らないが今日の兄貴は貫禄が出ている。ナイス、兄貴。
・・・・・それなのに彼氏は何も聞いてなかったかのように、何故かスルーしてしまった。何者?

と思ったら、今度はいきなり辺りを見回す。何をしてるんだろうかこの人。

「って、誰も居ない・・・・・?」

「いや、後ろにいますよ?」

うっかり電柱に向かってよろけてしまう。彼女から一応は話は聞いてた。
でもさ、こう言う日常生活でも鈍感なの?彼女の苦労が伺える。

「何で声は前から聞こえてきたのに、いつの間に後ろにいるんだ?」

いやいや、貴方が無視したんじゃないですか。

「え?・・・・・声かけられたのに普通に無視して通り過ぎちゃったじゃないですか。
わざとかと思ってたんですけど・・・・・違うんですか?」

「・・・・・ああ、さっきまで考え事してたから。」

この人、考え事すると周り見えなくなるタイプね。

その後彼女の方が、諦めに近い表情を見せる。ああ、分かってるわけ。
それを見て彼氏はまた考え始める。そこに兄貴が近づいて話をする。
まあ、予想通りと言うか聞いてない様子だったので、

「俺の話を聞けよ!!!」

兄貴がキレて怒鳴った。やっぱりね。それでやっと彼氏の方が憂鬱そうに顔を上げた。

「で、御用は何ですか?」

その言葉を区切りにして彼氏さんが口を開けて固まる。いや、兄貴も同じ様子だ。
何故だかいきなり二人が一瞬固まった。

しかし、その時間はいつまでも続かず二人同時に一言。

「「・・・・・お前かよ。」」

電柱に頭をぶつける。もの凄く痛い。けどそれより自分の計画がそっちの方向で
崩れたことにもの凄いショックを受けた。後であの兄貴の夕飯の中にでも塩を大量に仕込もうかしら。
・・・・・どうせ、八つ当たりですよ・・・・・。

「で、取りあえずお前は何の用だ。」

何かいつの間にか話が進んでる。

「別に言っても良いなら言うが、良いんだな?」

何で言おうとしてるのかしら、あのお兄様は。まさかマジメに言うわけじゃ・・・・・?

「教えてくれ。」

彼氏さんが聞いてくる。大丈夫、そう、大丈夫。まさかあの兄貴が私を裏切るわけが無い。

「簡単にいうと、お前らの親交を深めるために悪役になった訳なんだ。」

と、思ったら簡単に言った。一気に怒りがこみ上げてくる。
覚悟しておいてくださいねお兄様。今日の晩御飯は一生忘れられない味にしてあげますから。

「・・・・・じゃあ言うか、とか言って、さらに整理してから話してくれると有難い訳だが。」

より深く聞こうとしている彼氏さん。もし彼女がいなければ私はここで飛び出していた。
そしてあの兄貴に全力でとび蹴りを喰らわしていたことだろう。

・・・・・飛び出せないのが!飛び出せないのが憎い!

「まず始めに言うと、お前らは恋人の関係な訳だ。なのに、まったく進展してないらしいじゃないか。
それで見かねたとある奴に頼まれて、古いネタだが悪役が絡んできてどうのこうのって事をやって、
お前ら二人の仲を深めさせようとすることにした訳だ。分かったか?」

とか考えてたら、いつの間にか兄貴が説明を始めてた。
まあ、私は呑気にも日本語勉強しなさいよ、とか考えてたんだけど。

「分かりづらいが要点は分かった。そいつに取りあえず余計なお世話だ、とだけ言っておけ。」

よ、余計なお世話とは何よ余計なお世話とは。周りから見たらまったく進展してるように見えないじゃない。
と、思ったらやっぱりウチの兄貴にも見事に突っ込まれてる。

そして、さらに核心を突いてきた。

「お前ら、本当に付き合ってるのか?」

彼氏さんが何か追い詰められたような顔を見せている。
何故にそんな顔をしてるんですか貴方は。堂々と言えばいいじゃないですか。

「いや・・・・・一応・・・付き合ってるんじゃないか?」

苦し紛れな一言。・・・・・一応?

「あ、あの、一応ですか?」

やっぱり同じ事突っ込まれてる。

「じょ、冗談冗談。ちゃんと言うから。」

そう言って誤魔化す。これで言わなかったら飛び出してぶん殴ろう。
と、思ったらいきなり彼氏の顔が真剣になる。おお、やる時はやるのね。

「付き合っ」

「やっぱりストップ!」

・・・・・何で妨害するの?言わせればいいじゃない。
いや、笑っても誤魔化せないって。

「こんなときまでイチャるな。」

兄貴が突っ込んでくる。それと、気のせいか分からないけど。兄貴、怒り始めてない?
取りあえず抑えて。本当に抑えて。

「イチャってない・・・・・ってかイチャるって何だオイ。」

「意味は伝わってるんだからいいじゃないか。」

沈黙する彼氏さん。あれはきっと細かい事を気にするタイプだ。

「さて、話戻すぞ?」

「・・・・・分かった。」

本題に戻るわけですか。

「さっきの様子見れば分かるけど、一応聞いとく。付き合ってる、でファイナルアンサー?」

「ふぁ・・・って何でこんな言わされ方なんだよ。」

「ファイナルアンサー?」

いや、感情抑えようよ、兄貴。

「だから言わないっての。」

「ファイナルアンサー?」

分かるよ?でも、マジで抑えてよ?
何処から出したか分からないけどその後ろで握り締めてる辞書はしまおうね?

「ファイナルアンサー?」

「ファイナル・・・・・アンサー。」

仕方なく彼氏さんが答える。確実に無理やり出された感じだ。
そして、その答えを聞いて兄貴はとうとう辞書を彼氏さんに振り下ろした。
しかもよりによって角だ。その痛みは量りしれない。

「・・・・・うぐぇ!?」

彼氏さんが反応する。どうでもいいけど反応遅くない?

「何なんだ一体。」

頭を抑えて質問する彼氏さん、それに兄貴は笑って堂々と

「気にするな。ただの私怨だ。」

・・・・・抑えきれなかったのね。兄貴。

「・・・・・・・・・・いやいやいやいやいやいやいやいや!気にするだろ!?」

「どうでもいいですけど、『いやいや』って言い過ぎじゃないですか?」

「本当にどうでもいいって!」

この二人凄すぎ。何でこんな時にこんな会話が出てくるの?

「だからイチャるな!」

兄貴がまたキレた。その気持ちは確かに分かる。
で、二人はと言うと、兄貴の言葉にビビって向きなおした。

「で、私怨の原因は?」

「お前、もう一回殴られたいか?」

「すみません。」

ノリがいいね皆さん。

「で、原因は分かったか?」

「全然。」

言わなければいいのに。彼氏さんはまたも頭を辞書の角で叩かれた。
・・・・・ふらついているけど大丈夫なのかしら。

「お前、自分の彼女をちゃんと見てるのか?」

説教モード入ったね。

「正直な話見れない。理由は・・・・・まあ、何て言うか。」

彼氏さんが横を見る。彼女の方も彼の方は見ていたので、目が合う。
だが、すぐお互いに目、いや顔を逸らした。・・・・・ああ、何かしらねこの気持ちは。

「・・・・・お前たち、予想以上のバカップルだよ。」

兄貴が結論を出す。私もその意見には賛成だ。

「何でそうなるんだ。」

と、ここでいきなり兄貴がこっちに向かってくる。帰るのだろうか?
いや、私の目の前で止まった。そして、いきなり辞書を私へと振り下ろしてきた。もちろん角。

「うえっ!?」

あまりの痛さに体がフリーズする。そして、その状態の私を兄貴は無理やり引きずり出した。
そしてあろうことか、

「これ、首謀者。それじゃ、後はご自由に。」

私を指差しこう言った。空気が固まる。彼女が唖然としてるのが痛い。
早くここから逃げ出したい。そう思って私は色々言って逃げた。

 

翌日。教室。

「昨日は、どう言う事だったの?いや、むしろそれ以前の話についても教えてくれない?。」

私の目の前には見たことも無いような恐ろしい笑顔の彼女が問い詰めてきたのは言うまでも無い。
・・・・・勝てるわけが無いじゃない。洗いざらい吐きましたよ。もちろん。

その後?教えられません。

 

完全に終わり。