それは数ヶ月前。
呼び出し音。まあ、要するに誰か来たって事だろう。
俺は、誰だろうかと思って、つい最近なら結構普及しているであろうインターホン用カメラで外を見た。
するとそこには、一人のやせ細ってメガネをサラリーマンの様な男性が一人いた。
・・・・・・・ったく、何のようなんだ。「御用は何ですか?」
「ご両親の方はいらっしゃいますか?」
どうやら押し売りのようだ。面倒だったので俺はすぐさま言い訳を思い浮かべる。
色々言っていればその内諦めて帰るだろう、と考えた訳だ。「母は旅行中です。」
「旅行・・・・・ですか?こんな時期に?」
ミスった。ゴールデンウィークは一週間前か。
「間違えました。海外へ仕事に行ったんです。」
「そうですか・・・じゃあ、お父さんは?」
「死にました。」
心の中で父に謝っておく。もちろん死んだなんてもっぱらの嘘な訳で。
だが、きっとコレでこのセールスマンは帰るだろう。「そうですか・・・・・ならば、丁度良かったです。」
っと、予想外の反応。
「実は私、当宗教の信者を集めておりまして。」
「はい?」
「あ、こちら聖書の一文です。」
そう言うとオッサンは小さなパンフレット風の紙を広げ、カメラに見せた。
そこには「人は悲しみから救われる」と書いてある。ああ、そう言う人たちか。
・・・・・だが残念だったなオッサン。俺はそう言う人たちの対処法も心得てるのさ。「ウチ、天台宗ですから。」
コレが一番だ。
「備えあれば憂い無し、という言葉ありますよね?だからこの宗教の信者になる事で幸せは二倍に
「二兎追うものは二兎も得ずって言葉があるでしょう?神が二人居たら意味無いんですよ。」
「実はこの宗教、日蓮聖人のお師匠様が開いた宗教なんですよ。」
「残念ですが日蓮にお師匠なる物はおりません。大体日蓮関係ないですよ。」
・・・・・このオッサン強いなオイ。全部でっち上げなのは分かってるが、
ここまで堂々と嘘をつくなんてかなりの腕前だ。と、そこに予想外の人物が現れる。
「・・・・・。」
それは、俺の幼馴染、男だけど。そう言えば今日ノート貸しに来るとか言ってたっけな・・・・・。
タイミングが悪すぎだ。そして、オッサンが俺の目線を辿り彼を見つけると、
予想通りというか、すぐに近づいて宣伝を始めた。「君、今何かとんでもない物に取り付かれていますよ!・・・・・」
俺が急いで玄関に出たときは時既に遅し、彼はオッサンに引きずられて行っていた。
追いかけようとはした。だが、もう車で連れ去られてた。
翌日。
学校で早速奴に会った。昨日の事について興味本位で聞いてみた。
「オイ。」
「ん?」
「昨日、大丈夫だったか?」
「大丈夫だったけど。」
・・・・・ん?いや、ソレは無い。コイツの性格は良く知っている。
正直な話、コイツは「頼まれたら絶対断らない性格」のはずだ。そんな奴が無事に済むわけが無い。「なあ・・・・・。」
「どうしたの?」
「お前、本当に何も無かったのか?」
「何もって何が?」
逆に聞き返される。こっちが不利な状況になっている。
「いや、何も無いならいいんだ。」
仕方なく俺が折れることになった。まあ、アイツが何も無いって言ってるんだ。
大丈夫だろう。多分。まあ、念のために一週間くらいは観察するけどな。
一週間後。
とうとう奴は動き始めた。ほんの些細な事。しかし、俺はすぐにその変化に気付いた。
それは奴のカバンに十字架が付けられた事だ。ここで俺は、確信した。コイツは見事に宗教に取り込まれた事を。「やっぱりか・・・・・。」
奴のカバンを見て呟く。コレだけして止めないのか?
悪いが俺はそんなことする人間じゃないし。それにすぐ飽きるだろう。まあ、その読みは外れたわけだが。
まあ、そんなこんなで一ヶ月が過ぎた。
俺が特は何の意識も無く、呆然と家へ向かっていた。
と、その時いきなり背中に衝撃が走った。「ん?・・・・・。」
自慢じゃないが、俺はこのとき悲鳴を上げなかった。いや、その蹴りの所為か。
まあ取りあえず俺は、持っていた空気を一気に吐き出して地面に突っ伏した。
で、しばらく咳き込んでから立ち上がった。「・・・・・一体何なんだ。」
後ろを見る。そこにはショートヘアーの見た事も無い美人が、いや言いすぎた。
「言い過ぎたって何かしら?」
「人の思考読むなって。」
「・・・・・顔で分かるわよ・・・・・それより。」
紹介をしておこう。
彼女は奴の妹だ。精神的に危険人物である。ってか簡単に言うとSだ。
さて、どのくらいのレベルでSなのか。例として、チェスと将棋を挙げておこう。
彼女と勝負すると、しなくても勝てるのにわざわざ王様以外が完全に殲滅させられる。
そしていつまでも残された王様はいたぶり続けられる。これで分かってもらえただろう。「人の話聞きなさいよこのクズが!」
「ごふぉっ・・・・・すんませんでした・・・・・。」
と、いきなり紹介しているところで顎を盛大に膝蹴りされる。
で、俺はというと仕方なく謝る。ってかいきなり膝蹴りか。やっぱSだよこの人。「・・・で、結局・・何でしょうか。」
年下の女の子に敬語で話す情けない俺。いや、痛いのは嫌なんですよ。
「どうしたもこうしたも無いわよ!」
鳩尾に一撃。
「ウチの兄さんが謎の宗教にはまってるのよ!」
裏拳を顎に喰らった。このままだと堕ちる。
「元を辿ってみたら、アナタの所にノートを返しに行ったところからおかしくなってきたのよ!」
襟首を捕まれ、往復ビンタ三発。殴らないと喋れないのか。
「さあ!何を!やったのか教えなさい!」
始めの一言で背中を壁に叩きつけられる。
次の「何を!」で肩を両手で掴まれる。そして、最後の一言で、ズイっと目の前に迫る。
・・・・・この部分だけ、切り取れば最高のシチュエーションだな・・・・・。まあ、取りあえずこんなくだらない事を考えながらも堕ちそうな頭を必死に回復させ、
俺は事の始終を話した。全て話すと、俺はやっと解放された。「何で捕まえなかったの!」
「いや、車で拉致られちゃって・・・・・。」
「可哀想な兄さん・・・・・。」
このブラコンめが、と言う言葉を飲み込んで話す。
「どうするんだ?」
「決まってるわよ。」
そう言うと、彼女は俺を指差す。
「アンタが兄さんを引き戻しなさい。」
「は?」
「責任はアンタにあるのよ。だから、アンタが兄さんを元に戻しなさい。」
「お前は何もしないのか?」
「もちろん私も色々する。でもやっぱり一人だけじゃあ決定打に足りないと言うか・・・・・。」
こう言うときだけ、後輩の顔になる幼馴染の妹。
「う・・・・・。」
「何度も言うけど、責任は、貴方にもあるの。」
確かに、責任は俺にもあるだろう。
「やって・・・・・くれるでしょ?」
もうこうなると、止まらない。仕方なく俺は、
「・・・・・分かった。」
これしか、言えなかった訳だ。
そして現在、今もたった一人の幼馴染のために奔走中の俺が居る。いや、勘弁してくれよマジで。
あとがき
結局終わりが浮かばない+無駄に長くなるので、途中で止めました。
・・・・・考えていた結末?聞かないでくださいよ。ま、批評はお待ちしております。