取り合えず、俺は昨日の自分を殴りたい気分だった。
むしろ俺が殴りたいのはヤツかもしれない。
ヤツと言うのは、俺の友達の一人。
昨日も夜の12時から何故か、三時間ほど携帯のメールで話しあうと言う仲なのだ。で、今日。
俺はお約束的と言わんばかりに、遅刻ギリギリの時間で起床した。
無常に時を刻む時計に殺意を覚えながらも、俺はすぐに着替え、自転車へ乗り込んだ。そう言うわけで、今に至る。
俺はたった今、ラストスパートをかけている。
朝の住宅地。生徒の騒がしさはとっくに無くなっていて、
そこにあるのは自転車の車輪が立てる音と、俺の息遣いだけだった。
時間はあと2,3分って所だろう。だから、何も考えずにひたすら自転車を漕いでいって、「……はあ?」
バカらしい声を上げてしまった。
それは、遠くに見える人影に関係がある。「…………」
最初に目に付いたのは、どこまでも黒く鮮やかに光る長髪。
次はすらりと伸びた手足。何処のだか分からない制服も、彼女が着れば映える。
そして整った顔、特にその目は本人の雰囲気を投影するかのような涼やかさがある。簡単に言うのであれば、そんな美人がこっちを見ていた。
言っておくが、自意識過剰とかじゃない。断言出来る。っかそれよりもだ。
今の時刻、さっきも言ったとおり遅刻2,3分前。
なのに、何であの子は急ぐ様子も無く、その上一歩も動かない。
もしかして、時間が分からないのか?「あー、どうしようかね……」
少しずつ近づいていく中で、色々と考える。
『もうすぐ時間だぜ』と伝えるべきか、
何も言わずにそのまま行くべきか、
『乗るかい?』と軽くナンパを……いや、最後のは却下だな、うん。と、俺がそんなバカなことを考えている内に、俺は彼女の目の前近く。
そして、近づくに従い出てきた思考は『触らぬ神に祟り無し』。
まあ、そう言うことで俺は、彼女の横を通り過ぎることにする。
そんな考えとリンクしたかのように、彼女も行動を取った。「すぅ………」
いきなり彼女が人差し指を俺に突きつけた。この後『ばっきゅーん♪』とか言いそうな勢いだ。
その上彼女は、何故か息を吸い込んだ。まるで大声を出すように。――これは……ああ、なるほど。危ない人だ。
そう認識した瞬間、俺はペダルを踏む足に一層、力が入った気がした。
多分、俺的にヤバイ、と認識したんだろう。だから、俺もその直感に従い、
彼女の横を通り過ぎ……「Accurate!」
通り過ぎることは出来なかった。
別に、この子が叫んだから止まった、と言う訳ではない。「……え?」
何てこと無い。ただ、予想を数十度上回ったことが起きていた。
それ即ち、空中浮遊。俺は、自転車の進む方向とは直角、自分から見て右方向へ。
痛みも衝撃も無く、ただ吹っ飛んでいた。正直意味が分からない。
『オイオイまさかコレ本当超能力者? ってか、そうだとしても何で俺を狙うんだよ? いや、それ以上に本当にコレは、超能力か? おかしいだろコレは……』
進行方向には、コンクリート壁。それに到達するまで俺は、
こんんあバカみたいなことを必死に、考え続けたりしていた。