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彼は特別な存在であった。決して昔からではない。ただ、三年前の事故から、
彼は特別な存在へと「成り下がった」。
休日、とある街での路地裏。
「もう終わりでいいよな?」
仁が問いかける。顔には何の外傷も見られない。
「……ざけんなあ!!!!!」
そう言ったのは、肩で息をしてる男。対照的に顔中傷だらけだ。
彼は叫んだ瞬間に、殴りかかるが、それはいとも簡単に阻止されてしまった。
「っ!!!」
声にもならない悲鳴とともに何か聞きなれない音が響く、
音が鳴った場所を見ると、いつの間にか男は前かがみになっていた。いや、されたのだろう。仁によって。
仁は相手の頭を掴んで下に向けていた。そして、その顔には容赦なく膝が叩き込まれている。
要するに、さっきの音は男の鼻の骨が折れた音だったのだ。
「あ…うぅ……。」
うめき声を上げた男は、ドサッ、と言う音とともに地面に突っ伏した。
この情景は、彼が『仁』として、生き始めて三年経ったある日。要するに現在。
「いきなり因縁つけて来やがって。……あ~あ、みんな引いてるし。」
彼の性格は、みんなに親しまれるような性格だった。
そして、彼の周りにはいつも人が集まっていた。
「……すげえじゃん!仁!」
「私感動したかも!」
「お前ならやると思ってたな……。」
「やるじゃない!」
四人はそれぞれ仁に向けて賞賛の声で反応した。
今回は、彼の、主役としての、最初の舞台。
別の場面、教室での休み時間。
「おい、阿野。」
呼ぶ声。それは間違いなく、目の前の人間が発した物だろう。
「……どうした?佐藤。」
机の上に座って、周りと会話していた仁は、その会話してた五、六人の
人の群れをどかして目の前に来た人間に問いかける。
一方、目の前に出た人物は仁の襟を掴むと引きずり出す。
「な、何だ?お、おい、放せって……。」
廊下で佐藤が手を離す。そして、仁に耳打ちした。
「昼、屋上に来い。一人でだ。」
「……オッケー。」
それを聞いて満足したのか、金髪で、男にしては少し長髪の、見るからに不良だ、
と思わせる男は行ってしまった。行ってしまったのを確認すると仁はまた教室へ戻った。
「仁、お前何したんだ?」
先ほどの始終を声はともかく見ていたクラスメイトが問いかける。
「いや~、ちょっとしたいざこざがあってね~。」
仁はそれとなく言った。
「喧嘩売ったのかよ!?」
「マジで!?あ、でもコイツ結構さあ・・・・・。」
またその場は騒がしくなっていった。だがその中で仁は一つの視線に内心冷や汗を流した。
それは、そう。自分のことを『章』とよんだ人間だ。
――いや、まあどうせ見られても構わないだろうけどな……。
もはや彼が喧嘩でも強いと言う事は知られている。
と、言うよりスポーツ万能、といった方がいいか。
――ただ、この前のこともあるしな……。
そう言って屋上での事を思い出した。だが、結局仁は昼休み、屋上へと向かった。
「本当に一人か?」
扉を開けて閉める。その動作を見ていた佐藤は質問してきた。
「もちろんだって。」
仁が答える。それを聞くと佐藤は約束を破られなかった事に満足したかのように頷いた。
「……呼ばれた理由は分かってんだろ?」
怒気を孕んだ声。まさに一触即発とはこのことだろう。
だが仁は知っていてあえて、友達とふざけて話すような、そんな感じで話しかけた。
「分かってる分かってる。……だけど、一人で良いのか?」
「ざけんな!調子に乗りやがって……!」
仁を睨みつける。その迫力、仁には何一つ意味は無かったが、
怖いものではあった。
「じゃあ、仕方ないか……。」
仁がため息を吐く。そして、佐藤を睨んだ。その目は言わば氷。
あまりの豹変に佐藤がたじろぐ。
「お、お前……何なんだよ。」
「阿野……仁に決まってるだろ。お前は、何者だ?」
相手を見据えながら、仁は言った。
「な、何がだよ?」
大げさにポーズを取る。
「誤魔化してるつもりか?だったら、佐藤だよ、とでも言ったほうが良いんじゃないのか。」
「………。」
仁が指摘すると、相手は黙りこくった。しかし、それも数秒ですぐに喋り始めた。
「あ~あ、もうばれたんですか。」
いきなり男は落胆の表情で、自分の髪の毛と顔に手を掛ける。
それを一気に引き剥がすと、そこには別の人間の姿が現れた。
「誰だ?アンタ。」
警戒状態で問いかける仁。
「『彼』の、保護者ですよ。」
その答えは、計算しつくされていた答えだった。それゆえに仁は表情に変化を見せる。
「そんなアンタが、何の用だ。」
今度は仁の声に、怒気が篭っていた。
「『彼』が何かしましたか?」
あっけらかんと問いかける。それが結果的に仁の怒りをさらに煽った。
「テメエか……。『章』を引きずり出そうとしたのは!」
「引きずり出す、ですか……。」
しばらく考え込むポーズを見せる。
「いや、そう言う訳では無かったんですがね~。」
「私としては、演じて欲しいんですよ。」
「貴方達が主役の、物語を。」