真っ暗な状態から打破されたのは、さっきの状態から2、3秒後のこと。
 目の前が真っ白になる。

「うわ、眩し」

 それから数秒間、目に焼きついた白に苦戦。
 やっと目を開けられるようになって周りを見渡すと、
 そこはビルの屋上だった。

「……ここは何処だ?」

 ビルのフェンスに駆け寄る。
 目の前に広がるのは世界が終わりになったかのような赤い空と、素早く流れる雲。
 下を見れば、崩れたビル。道路なんて大きくひび割れている。
 まさに、廃墟としか言いようが無い場所だった。

「へえ、今日はここでやるんだ」

 肩に乗っていたシロは勝手に納得。

「待て、何を勝手に納得してるんだ」

「あ、ゴメンゴメン。……それでえっと、何だっけ?」

 何について説明すればいいのか分からなかったのだろう。
 シロは俺に対して困った顔を向けてくる。

「お前はここが何処か知ってるのか」

 シロは、一拍置いて、すぐに答える。

「それは、YES。ここは、まあ戦場とかそんな感じ」

「戦場ねえ……」

 そこで俺は、もう一度下を見る。
 やっぱりそこには、崩れ落ちたビルや、ひび割れた道路。
 何となく、ここも大丈夫かと気になってくる。

「もう荒れてるようにも見えるんだけど」

 シロは苦笑した。
 何処に笑う要素があったかは分からないが。

「いや、これはまあ……製作者の意図」

 何て曖昧な返答なんだ、そう思った。
 大体製作者、って誰なんだよ。
 しかし、その質問に対しては、シロは答えてくれなかった。

「いつか、分かるよ」

 この一点張りだったので、仕方なく質問を変えようとした時、
 鷹が空を飛びまわっているのを見つけた。
 その鷹は、さっきからランダムに飛び回っている。
 そこから、まだ俺は発見されていないことを知った。

「あれ、いきなり急いで何処へ行くの?」

「あの鷹に見つかると厄介なんだ」

 ビルの屋上から隠れるために走った。
 今この時でも、鷹に見つからないかどうかが気に掛かる。
 だから、足は自然と素早く動いた。

 扉に辿りつくと、一思いに開けようと力を込めて押す。
 だが、その鉄の板は一ミリも動こうとしない。
 鍵を掛けられているか、錆びているかのどっちかだろう。
 『製作者』の意図からするに、多分後者なのだろうが。

「シロ、後ろの鷹はどうなってる!」

 突然の質問に驚きを隠せないようだが、後ろを振り返るシロ。
 その間に俺は、何度も扉を蹴る。

「ケイ! 鷹が……」

「開け、この野郎ッ!」

 全力の一撃、それによって扉は蹴った場所を中心に、ガコンと凹んだ。
 ……これでも開かないか、無念。

「ケイ、だから鷹が!」

「鷹が何だって!?」

 シロの言葉がわずらわしくて、鷹の方を見る。
 すると、そこに居たのは鷹じゃなくて人。
 それもさっきの男だった。

 しばらく思考が停止する。

「見つかってたのか!」

 開口一番、叫んだ言葉はそれだった。

「さっきから言ってたじゃん!」

 シロは分かってなかったの!?
 とも言いそうだったが、急いでそれを遮る。

「どうする!?」

「こうなったら、一思いにChangeさせられるしか無いでしょ!」

 そんなシロの言葉に従うかのごとく、男が落下運動を始めながら、こっちを見る。
 そしてニンマリと笑いながら、何かを喋った。
 もうそこからは予想通りというか何と言うか、

「あー、空が青いなあ」

「実際は赤いけどね」

 空に浮いていた。
 目の前では男が、ビルの屋上で口の端を吊り上げたままだ。
 それを見て一言、

「ちっくしょおおぉぉぉ!」

 叫びながら、俺は落下運動を始めた。
 どう考えても助かる気がしない。

 なのに、シロはと言えば、

「もう相手の武器の能力は、分かってる?」

「ああ、ほとんどッ!」

 何でそんな必要のない事を、そう言おうとしたが声は出し損ねた。
 そのくらい、落下速度が上がっているのだと知る。

「シロ、助かる方法は無いのかッ!」

「ん〜? 別にAccurateを使えばいいじゃん」

 こんな時に限って、某クイズ番組の司会を彷彿とさせるような間を置くシロ。
 お前マジで死ぬからそう言う事は止めろ、そう言いたかった。

「もっと詳しく言え!」

 こっちも必死なので、シロを急かす。

「……そうだね。使用してから、『正確に何とかかんとか』って考えれば」

「Accurate!」

 言葉を途中で遮って、その言葉を叫んだ。
 残り時間、後4,5秒。

『正確に……無傷で着地する!』

 途端、体が大きく揺れる。
 それは、風に影響されたからではなく、自分が引き起こしたものだった。
 正直、自分の体を勝手に動かされているような感覚にはちょっとした恐怖を覚える。
 だが、これで助かるのなら、まあ安いものだろう。

 頭の中で、さっきの数秒を数える。

 それはあっという間に過ぎる。
 そして、落下するを俺を、一面のコンクリートが迎えた。

「うあッ!?」

 その瞬間、俺はつい叫び声を上げた。
 着地のとき、俺の体は何度も回転し始めたのだ。
 そして、最後は仰向けで、真っ赤な空がもう一度視界に開ける。

 無傷な事を確認して、俺はこれだけを呟いた。

「まったく、意味が分からん」

「アレは、まあ一種の着地術だね」

 どこからか、シロが話しかける。
 ずしりとした重みが腹に。

「お前……何で重いんだ?」

 シロを見る。
 しかし、シロにとってはどうでもいい事のように簡単に述べた。

「ん、ここではそう言う事になってるの」

 納得できなかったが、それもシロは遮る。

「……仕方ないか」

 シロをどかして起き上がる。
 そして、さっきのビルを見上げる。

 そこからは何も見えなかったが、さっきの男は高笑いしてるに違いないだろうな、と何となく思った。


 

 第十話

 第十二話

 Alphabet・Fight