「さて、武器の使い方なんだけど」

 ここに来て、また目を色々な方向に動かし始める。
 悩んでいるのとは違う。

「いきなりどうしたんでしょうか」

 自分の敬語に変な違和感を覚えるも、生きるためだと割り切る。
 敬語なんて今までほとんど使ったことが無かったので、正直微妙な気分だ。

「内容が簡単すぎる」

 向こうは向こうで、自分の言葉で気が抜けてしまったかのように髪を弄り始める。
 こちらからすると、早く話し始めてもらいたいために苛つきを覚えながら答える。

「別にいいじゃないですか、簡単で」

「つまらない」

 何で単語で話すんだこの人は。
 目下の人間に対して、とことん冷たいじゃないか。
 ってか、さっきまでの態度が嘘だったのか……?

「まあ仕方ない、話しましょうか」

「はい、助かります」

 彼女が髪の毛から手を離すと、矢継ぎ早に話し始める。

「使いたいと考えながら、Accurateと喋る、それだけ」

「喋ったらどうなるんですか?」

「Accurateの効果が発揮される」

 取りあえず固まる。何故か冷たい風が吹いた気がするが、
 これはきっと季節の変わり目か何かのせいに違いない。

「そうですか」

「間が不快」

 頑張って返答したら、ものの数秒で打ち落とされた。
 ってか、今何て言ってた?

「待った、使い方は全ての武器で共通? ……ですか」

 彼女の顔に一瞬、帳がかかったのが見えて自分の言葉を改める。
 何となく、自分の命ってこんなに安いものなのか、と考えさせられた。

「まあ、一応は同じだけど」

 それがどうしたとでも言いたいようだった。
 まあ、俺としても何でこんなことを聞いたんのか、数秒前の俺を問い詰めたい。
 何かの役に立つとでも思ったのか……?

「あ」

 数秒前の光景が咄嗟に蘇る。
 彼女が剣を呼び出した、あの時の光景が。

 そうだ、そう言えば、彼女も何か呟いて……

「―――」

 目の前で、日本刀とは違った細身の真っ直ぐな剣が、
 テーブルに刺さって、数秒間小刻みに揺れた。

「……え?」

「口を塞ごうとしたら、こうするから」

 いつの間にか、俺の考えている方向の遥か先を見通していたのだろう。
 まだ俺が考えもしなかった事に、堂々釘ならぬ剣を刺した。
 しかもテーブルに。

 貴方のやる事なんて全てお見通し。
 表情が、如実に語っている。

「いや、まだそこまで行き着いてなかったし……」

「どうせ、考えるでしょう?」

 見事に丸め込まれ、何も言えなくさせられた。
 ……タチが悪いって、コレは。

「まあ、いいわ。これでお終い」

 そんなこんなで、いつの間にかお終いにされていた。
 最後に、質問は無いかと聞かれる。
 だから、せっかくだしと言う理由で質問してみた。

「俺が選ばれたのは、偶然か? ……いや、ですか?」

 その質問に、彼女は眉を少し動かすことで、第一に答えた。
 次に、手を出してくる。初めが握手かと思ったが、それは握りこぶしだった。

「ジャンケン、してみない?」

 その言葉は、俺にとってみれば意外としか言いようがなかった。
 ……だが、彼女に至っては本気らしい、手を引っ込めようとはしない。
 だから、俺も仕方なくグーを出してみる。

「さて、その前に条件。私はグーを出すから、私の満足する結果を作りなさい」

 更に俺を混乱させる言葉。
 俺にその意図を読み取る事は……

「分かった」

 彼女の口の端がつりあがり、お馴染みのアレを口にし始める。

「最初は、グー」

「「ジャン、ケン、ポン」」

 最後はお互い口にして、その手を出した。
 彼女は宣言どおりグー、そして俺は。

「……これって、何?」

 さっきまで存在がほとんど希薄だったシロが、テーブルの上に座ったまま話しかけてきた。
 まあ、分かる気もする。俺が出していたのはグーチョキパーなんて言う禁じ手なのだから。
 まともにやっていれば、出す訳がない。

「これは、どう言う意味?」

「正直に言うと、そっちがグーを出すとは思って無かった。ただそれだけ」

 そう言うと、彼女の方から手を引っ込めた。
 静かに立ち上がり、玄関へ向かうのかこの部屋から出て行こうとする。
 それを俺は追いかけて、肩を掴み、

「今のは、理由じゃないだろ?」

 そう問いただした。
 彼女はこちらを一瞥さえしようとせずに立ち止まる。
 その様子が、俺から身体ごと逸らしているかのように思えた。

「そうね。……将棋でも、やってみたら?」

「え?」

 唐突に、話しかけられたことに驚く。
 次に、その内容でまた驚いた。

「将棋?」

「……いや、パズルかもしれないわね」

 次々と微妙に繋がってるのか繋がってないのか分からないものを出していく。
 ふとそこで、シロが助け舟を出すかのように俺に教えてくれた。

「解く力が優秀だから、って意味じゃない?」

 ――解く力って、何をどう解く力のことだ?

「分かってないわね」

 手を振り払うかのごとく振り返り、手を組みながら俺を睨む。

「何もかもよ」

 それだけ言うと、またも俺から身体ごと逸らす。

「答えが分かるなら、その通りに動けばいいだけ。でも、そのためには非凡な動きもしなければならない」

 今、彼女は何を例えに話しているのだろうか?
 知恵の輪? 将棋? パズル?

 それとも……殺し合いのことなのか?

「それを補助してくれるのがAccurate。……『正確』」

 何て言うか、ついて行こうと思ってもついて行けない。
 遥か遠くの世界の話をしてるんじゃないかと思える。

「はい、ここで終了だね」

 そこで、いきなりシロが話を断ち切った。
 向こうを向いている彼女の顔は分からないが、
 話を断ち切られて動じる様子はまったく無かった。

「じゃあ、私は帰りましょう」

「……悪い」

 何となく、謝罪の言葉を口に出してしまう。
 シロが話を断ち切ったのは、確実に俺を考慮していたと言うのは明らかだったから。

「そうね、また敬語じゃなくなってる」

「ん、ああ、はい」

 場違いのような言葉に驚いたが、何回も返答を変えて、敬語に直す。
 彼女はそれだけを確認すると、

「じゃあ、また縁があったら」

 文字通り掻き消えてしまった。

 まばたきをしてた訳でもない。
 一瞬で、そこから消えてしまっていた。

「まさか、朝もこうやって消えたのか……?」

 考える意味もない。
 取り合えず呟きたかっただけだ。
 そして、先程話し合ったテーブルを片付ける。

「ケイ、あの説明で分かった?」

「まあ、一応……って何だそのあだ名」

 テーブルと、床に残る傷跡。
 それが、さっき起こったことは紛れも無い現実だという事を、静かに告げている。
 問題の剣自体は、刺さって数秒経ったら勝手に掻き消えてしまっていた訳だが。

「えー? 短くしただけだけど、結構良くない?」

「良くない」

 流し台で軽くコーヒーカップを水洗いして、食器棚にしまう。

「空中浮遊から、始まった……ってか?」

 誰にも聞こえないように、漫画でありそうなフレーズを口に出してみる。
 そして、やっと自分がそんな漫画のような非現実に呼び込まれた事を理解した。


 

 第六話

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