『メッセージは一件です。』
何もない真っ暗な部屋の中、ただ電話の案内音だけが響く。
その音は、何も遮る音が無いが故に、大きく聞こえた。
無機質な電子音が鳴り響く。そして、その後に声が続いた。
『修羅、開幕だ。お前と、私の知恵比べ。』
『絶対にお前に勝って、『あの日』の真実を聞かせてもらうぞ。』
その声は間違いなく、『彼』の被害者である男の声だった。
『…………。』
それを境に、メッセージは切れた。
電話の前に一人の男がいる。その目には何の表情も無く、ただ電話を見つめているだけであった。
そして、電話のメッセージを聞いた後、すぐに受話器を取ってとある番号を押し、ただ一言。
「捕まえられるものなら捕まえてみろ。」
その言葉は、機械によって元の音を変えられて、伝えられた。
翌日。
それは仁のいる高校での休み時間、そこには普段と変わらない生活風景があった。
「おい、お前。」
そんな中、仁だけはただ一人、違っていた。その証拠に仁は『彼』に話しかけた。
「……。」
一方、教室の隅で忘れ去られた置物のように佇んでいた彼は、仁の言葉に顔を向けると、
すぐに仁を無視するかのように教室を出て行く。しかしそれは、付いて来い、
と言う意思表示だということは仁にも読み取れた。
「何の用だ。」
彼は、普段話しかけられたことがないのに、珍しく話しかけられたことから、何かを察知してトイレへ場所を移した。
その後にやっと問いかける。しかし、確実にその話し方に親切は感じられない。
「ある人物について話してもらいたい。」
聞かれたので仁が問いかける。すると彼は眉をピクリと動かして、一言こう言った。
「上坂修羅か?」
仁はそれを聞くと、表情を変えて、
「物分りいいじゃん。」
と言う。そして仁がそのまま情報を聞こうと言葉を発しかけた時、
「だが、教えることは出来ない。」
彼は拒否を意味する言葉を発した。仁はそれに驚いて聞く。
「何でだよ!」
「『あの人』から連絡が来ているんだ。」
仁は落胆した。先を越されたか、そう思った。
――しかし、この時だった。携帯電話が鳴ったのは。
仁の物ではない。目の前にいる彼の物だ。彼は、携帯電話を取り出して発信者を確認する。
そして、確認した後少し驚きの混じった表情で、通話ボタンを押した。
「……何だ。」
無愛想に喋る。だが、顔にある驚きは隠せないでいる。
「ああ。今目の前だ。」
話からして、仁についてだろう。仁もそれを自覚していた。
「本当に、いいんだな?」
確認の言葉、その様子からかなり重要なこと、
形を変えて言えば上坂修羅について話し合っている事が分かった。
「……何?分かった。」
疑問の言葉を残して、彼は電話を切る。そしてこう告げた。
「どうやら話してもいいらしい。許可が出たからな。」
「じゃあ……。」
「ただし、長くなるから昼休みだ。」
昼休み。
約束どおり屋上に彼らはいた。尚、扉には鍵がかかっている。
そして、二人はそれぞれ屋上の周りに張ってある、鉄のフェンスに寄りかかった。
「で、何を話してくれるんだ?」
仁はフェンスに体を預けるように寄りかかって問いかける。
逆に、彼はフェンスに背中を寄り掛け、答えた。
「……そうだな。まず予告についてか。」
「予告?」
「そうだ。」
二人とも先ほどと同じように、仁はただ地面を見ながら、彼は、空を見ながら話す。
「上坂修羅の、殺人予告。」
その言葉に仁は時間を奪われる。しかし、彼はそんな仁を見ずに話を続けた。
「奴はもうすぐ、一人の人間を殺す。」
殺す、その言葉が仁の耳に冷たく突き刺さる。
そう、この言葉は冗談で言われたものではない。事実のことなのだ。
「何で助けないんだ。」
仁が問う。すると彼は、少し考えてから答えを出した。
「奴は、殺したあとに殺した人間の場所を教えるからだ。予告なんて言っても大した物じゃない。
ただ人を近いうちに何人殺すと伝言するだけの物だ。」
「なるほどな…………。」
しばらく考える仁。そして、ふと気づいた疑問を話す。
「そう言えば、伝言ってどう言う事だ?」
さっき彼が言っていた異常な点。それを仁は質問する。すると彼は、その質問が分かっていたかのように答えた。
「ああ、電話をしてくるんだ。声は変えてあり、時間もたった数秒だからな……逆探知は不可能だ。」
「ちょっと待て。」
仁は更に追求を続けていく。彼も動じずに聞いている。
「何で電話できるんだよ?」
「あの人が奴に電話番号を教えているから、それだけだ。」
「なっ!?」
仁は驚愕して隣の彼を見上げる。しかし彼はただずっと空を見ていた。
「まあ、驚くのも無理はない。だが、事実だ。そして、もう一つ。あの人も上坂修羅の電話番号を知っている。」
「……!?何でそれなのに見つからないんだよ?電話番号分かってるんだろう?」
仁はまた驚愕する。彼は、仁が問おうとしていた事、それを予測していたかのようにすぐ答えた。
「奴も馬鹿じゃない。手なんて色々あるだろう?
……まあ、例を挙げるならば架空の名義とかだ。」「なるほどな……。」
また、仁は下を向いた。しばらく沈黙だけが流れた。
「……他に聞くことはあるか?」
彼が質問してくる。すると、仁はしばらく考えて、静かにこう言った。
「じゃあ一つだけ。」
「何でお前は、上坂修羅を追うんだ?」
また沈黙が少しの間、流れた。