いきなり、続いていた振動が止まる。

「さて、着きましたよ。」

沈黙した車内を打ち破る声。仁はそれを聞くとドアを開けて周りを見渡した。

そこはかなり広いと思われる洋館だった。

そして、門へと歩いて行くと、そこには一人の女性が立っていた。

 

「帰ってください。」

 

事件を捜査に来た事を話した瞬間、たった一言で返される。

「……どう言う事だ?」

「断られた、それだけだ。」

仁が質問して章が答える。

「警察だって事故と言っていたじゃないですか!帰ってください!」

女性が声を荒らげる。この洋館の主のようだ。

「おや?私は事故の可能性もありえる、とだけ申しただけですが?」

男が疑問の声を上げる。

「え?あの、お会い致しましたか?」

「おや、覚えてないですか。すみません、そちらが私の顔を覚えている事を前提として喋ってしまって。
私、こう言うものですが、思い出していただけましたか?」

男が警察手帳を見せる。それを見て仁が驚きの声を上げた。

「う、嘘だろ?」

「嘘ではない。ただ…いや、別にいいか。」

「『ただ』って、何だよ。」

「後で話す。」

仁達が話をしていると、もう一方の二人組も話がついたらしく、二人はどこかへと歩いていった。

それを見て、仁達も後を追いかけていった。

 

洋館の中庭。三人はここに居た。

「現場は、ここなのか?」

「たぶん間違いないだろう。」

二人はある場所に視線を置く。そこは石畳。

事件の後だからだろう。まだ血の跡が薄く残っている。そこでいきなり後ろから男が話しかけてきた。

「では、資料を交えて事件の概要をお話しましょう。」

二人に資料が渡される。

「初めに1と書かれた資料を見てください。では、話しますよ?」

「確認しなくても別に大丈夫だ。」

彼が言う。隣で仁も頷いている。それを確認するとまた話し始めた。

「被害者は、誉田毅(ほんだたけし)。年齢は56歳。」

男が資料を読んでいく。仁たちは読まれた所を目で追っていく。

「次に、右上に『記録』と書かれた紙を見てください。死因は書いてある通り、高所からの転落です。」

「へえ……ってかさっきそこら辺は車の中で簡単に確認しなかったか?」

仁が尋ねる。

「確かに話しましたが、さっきはまだ不確定の情報もありましたので。」

「不確定……って何で知らないんだよ。警察の捜査で一回見たんじゃないのか?」

「いえ、私は見ていませんよ?」

「はい?」

仁が疑問の声を上げる。

「ですから、私が警察であるのは事実です。しかし、ここに捜査には来てません。」

「じゃあ、さっき覚えてますか?って聞いてたのは……。」

「本当に 警察の顔なんて覚えてなかったんですね。すんなりと許可を貰いましたよ。」

仁が彼のほうを向く。

「さっき、『ただ』って言ってたのは……。」

「そう言うことだ。」

彼が答える。

「では、続けますよ。」

また二人が向きなおす。

「死体の第一発見者は長男の修(おさむ)さん。見つけてすぐに通報したとの事で、
通報の時間は8時49分。……まあ、これくらいでいいでしょう。」

「通報の時間なんて必要なのか?」

「念のためですよ。」

仁の質問に、簡単に答え、男が何処かに行こうとする。

「待った。」

もう一度仁が呼び止める。

「はい?」

「他の資料については話さなくていいのか?」

「自分で考えてみてくださいよ。」

そう言うと、何処かへ行ってしまった。

 

「……で、俺たちのやる事は何なんだ。」

二人だけになって仁が話し始める。

「まずは、調べるしか無いだろう。」

「何をだよ?」

「何かを。」

「……。」

仁が打ち負かされ、仕方なく自分で考える。そして、数秒もしない内に答えを出した。

「じゃあ、家の人間に話を聞きに行ってくるか。」

「主な事は全部資料に載ってるだろう。まずそれを調べてからにした方がいいんじゃないか?」

彼がすぐさま反論する。

「……意外とお前も口やかましいんだな。」

「当然のことを言っただけだが。」

言われる前に、仁は資料を読み始める。それを見て、彼も資料を読み始めた。

 

数十分後。

「で、この後の調査は必要か?」

彼が、資料を読み終わったと同時に聞く。

「いらないな。」

資料から目を離した仁はただ一言、そう言った。そして、更にもう一言。

「……動機の面では完全に分かった。」

やはり、と言う顔で仁を見る彼。

「ただ……」

「殺し方か?」

彼が言葉に詰まっている仁に質問する。

「ああ。」

「分からないのは、それだけだな?」

もう一度彼が質問してくる。

「そうだけど……分かるのか!?」

「いや、俺は知らない。だが、知っている人物が、一人だけ居るだろ?」

「……オイ、まさか。」

万が一の可能性に気付いて、仁が尋ねる。

「その、まさかだよ。」

彼は、いともあっさりとそれを認めたのであった。

 

次回へ

前回へ

推理劇場へ