「じゃあ、早速ですが話して頂いてよろしいですか?」

仁が問いかける。

 

……この洋館の二階にあるテラス。

そこにある白いテーブルを囲んで『三人』は話していた。

一人は仁、もう一人は『彼』、そして、最後の一人は例の相手。

「何でも質問してください。」

相手は微笑む。友好的な人間のようだ。

その言葉を聞いて、仁は質問を始めた。

「まずは事件の状況について、あなたが見たことを話してください。」

『彼』はただそれをじっと見守っている。

「では……どこから話しましょうか?」

相手が聞いてくる。

「じゃあ、死体発見に至るまでの状況を事細かにお願いします。」

仁がそれに対して答えた。相手は、その言葉を聞くと話し始めた。

 

「夕食の事でした。私が父の部屋を訪れると誰も居なかったんです。」

冷静に言葉を紡ぎ出していく。

「父の部屋は意外と小さな部屋で隠れるところなんて何処にもありません。
私は別の部屋に居ると思い、一度部屋を出ようとしました。」

その時の状況をいかにも思い出しながら喋っている、と言う風に喋る。

「ですがその時、いきなりドサッと言う音が聞こえました。」

自分自身で確かめるかのように、頷く。

「私はもしやと思いベランダに向かって下を見たところ……。」

今でも信じられないかのように、最後の言葉を吐き出す。

「父が、地面に突っ伏していたんです。」

 

「……そうですか。」

仁が頷く。相手…第一発見者の誉田修がため息をついた。

「では、早速質問をさせていただいてよろしいですね?」

相手に向かって仁が尋ねる。

「はい、どんどんどうぞ。」

相手は、何気ない微笑で許した。

「では、初めに…何でお父様の部屋を訪れたのでしょうか?」

仁の問いに、相手は答えを慎重に出していく。

「初めに言いましたが、これは夕食の時だったんです。
普段は絶対にいるはずの父が居なかったので、呼びにいったんです。」

「そして、部屋に向かった所で死体を発見した、と?」

仁が尋ねる。

「まさしく、その通りです。」

「待った。」

二人が声の方向を向く。そこには『彼』がただ、腕を組んでいた。

「一つ聞きたい事がある。」

「何でしょうか?」

「さっき言った事によると、一回この部屋に入って出た、と言っていたのに
今度はその事を話さないんだ?」

「え?」

相手の顔に疑問の表情が浮かぶ。何の事か分からない様子だ。

それを見て、仁が先ほどの事だ、と助言をする。

「……ああ、そう言うことですか。それは、わざわざ言い直すのが面倒だったので」

「ならば、一度部屋を出て、音がした所でもう一度入って死体を見つけた、
と言うのは絶対に間違いじゃないんだな?」

言葉の途中で『彼』がもう一度口を挟む。

「まあ、そうなるでしょうか。」

「……フッ、正直がっかりだな。」

「い、いきなり何ですか!」

相手が怒る。

「いいか、ここにアンタの昨日の証言をまとめた紙がある。これを読んでみろ。」

『彼』が紙を突きつける。そこには、昨日第一発見者が話したとされる、

事件の流れが書いてあった。

 

〜遺体発見に至るまでの流れ〜

・第一発見者、父親の部屋を尋ねる。

・同者、ベランダに向かった所、遺体を発見する。

備考:この時ベランダへの窓が開いていたため、すぐにベランダに向かったと証言。

 

「あ……。」

仁がその紙を見て咄嗟に声を上げる。相手は、紙をひたすら見つめている。

「備考の所に何て書いてあるか分かるな?そう、ここには窓が開いていた、と書かれている。
もちろん貴方も分かるはずだ。この証言をした本人だからな。」

相手はまだ俯いている。密かに唇を噛みしめている。

「それなのに、今のアンタは、間違った証言をした。
よって、ここから導き出される答えなんて簡単なものだ。

……アンタは、嘘をついている。」

「だから何なんだよ?」

仁が今度はおかしな顔をする。それに反応して『彼』が喋る。

「黙って聞い」

「ちょっといいですか?」

『彼』が喋ろうとした瞬間、相手に口を挟まれる。

「仁君の言っている事とまったく同じですが、私が嘘をついているのが、
どういう問題になるんですか?」

「これから話してやるよ。……アンタ、さっき話している時に『間違いは無いか』
と聞いたところ、そうだ、と答えたよな?」

「ですが、その時は記憶がまだ曖昧で……」

「そんな事は無いはずだ。あの時俺はアンタが話したことを繰り返してその後『間違いは無いか』、
と言ったんだぞ?二回情報を確認して、まだ記憶が曖昧でした、で済ませるのか?」

「……。」

相手は黙ってしまう。言い返すことが出来ないのだろう。

「ここで、アンタに関する情報が読み取れる。少なくともアンタは昨日起きた、
この事件の第一発見者では無かった。そうだろう?」

『彼』は一度言葉を止めて、もう一度話す。

 

「……なあ?」

その言葉は重く、全てを乗せたような一言であった。

 

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